おさいふ放浪記 Vol.4 コロナ禍と音楽とお金のちょっと厳しい話 | 利回り不動産《RIMAWARIBLOG》

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おさいふ放浪記 Vol.4 コロナ禍と音楽とお金のちょっと厳しい話

2022/04/07

更新日 2022年9月30日

インタビュー歴 2000 人以上。
昭和、平成、令和を第一線で書く女のマネー・エッセイ。
本企画は過去現在、そして未来の「お金」と「生き方」にまつわる話を、ノンフィクション作家の森綾(もり・あや)がエッセイ、著名人インタビュー、体験談などを交えてお送りしていきます。
経験は豊富。でも見た目は40代です!(本人談)。どうぞお楽しみください。

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第4回 コロナ禍と音楽とお金のちょっと厳しい話

ロシアがウクライナを侵攻している。
とんでもない世の中になった。
子どもの頃、テレビのニュースでベトナム戦争を見ていた記憶があるが、こんなものではなかった。
 
今や情報量はものすごく、そしてどの映像が選ばれてどの映像が捨てられているのかもわからない。
私たちはただただ、火の粉がかかってこないことを恐れるばかりである。
日本でも、まずはサイバー攻撃を恐れなくてはならなくなった。
過日の某大手銀行のシステム障害も、何かそういう攻撃を受けたのではないかという危惧すらもってしまう。

一庶民の物書きの私には何もできない。
何もできないが、せめて平和につながる言葉を紡がねばならないと思う。

平和。平和とは何か。
その一つの基準は、芸術が自由に表現され、芸術家たちが生きていける世の中であることだろう。
芸術家たちはまず、新型コロナの蔓延で、一つの危機に瀕した。

今回はその危機に最もさらされた音楽家について書こうと思う。
全ての音楽家が、瀕死の危機に陥った。そしてその状況はまだゆるゆると続いている。

まず日本では、新型コロナ感染の源が「ライブハウス」であるかのように報じられた。
人が密に集まるところ、唾液の飛沫によって感染すると言う情報で「ライブハウス」は処刑された。
最初に感染者が出た大阪のライブハウスに来ていた地方の女性たちは、離婚したり、町を追われたりしたという噂を聞いた。
江戸時代にあったという「村八分」根性はまだ生きていたのかとやりきれない気持ちになった。

もちろん、感染対策のやり方もよくわかっていない頃だったから、そのライブハウスにも非はあったかもしれない。
ロックンロールは、確かにみんなが声をあげ、大人数の客がスタンディングでひしめき合う。
しかし、ひとくくりにライブハウスといっても、静かにクラシックのカルテットを聴くところもあれば、ジャズを聴きながらゆったりとお酒を飲むというところも多い。
ほとんど、無言で聴く。飛沫は飛ばない。
が、最初の端的な報道だけで日本中のライブハウスが「行ってはいけないところ」になってしまったことは本当に残念だった。

日本人はどんなに学校で勉強しても記号に弱い。
「ライブハウス」というだけで、中身も吟味せず悪になってしまった。
私ごときが知っているだけでも東京のライブハウスがいくつもなくなった。
クラウドファンディングによすがを求めたところが2つくらい。
生き残ったのは、ライブ以外の食事や喫茶や事業の収入などでなんとかやっていけるところ、親からもらって家賃を払わなくて良い場所にあるところ、などであった。
本当に音楽を吟味して、その店の特徴を出して、日々のライブだけでやっていたところほど、なくなってしまったように感じた。
その影響を被ったのは、もちろんライブハウスだけではない、そこで演奏するミュージシャンたちである。


私事ながら、執筆活動と同時にシンガーとしての音楽活動を2008年からやっている。
とはいえ、プロのシンガーのように、どこかの店で毎日歌って人が来るほどの人気はない。
よって、年に3回か4回、東京、横浜、故郷の大阪といったところでイベント的にライブをやっていた。
特に出版をするときは、そこで本の販売もできるのため、ありがたかった。

サポートしてくださるミュージシャンはプロの方々で、彼ら彼女らは毎日、どこかのライブハウスで演奏している人たちだ。
その人たちがライブができないというのは、ライフラインを絶たれるに等しかった。
配信で楽曲を売れる人、自分でレコーディングをしたり、他のアーティストのレコーディングに呼ばれる類の人たちはなんとか生きて行けたかもしれないが。
ライブハウスでのアーティストのギャランティというのはどうなっているのか、せっかくの機会だから書いておこう。
昔の六本木のライブハウスやキャバレーなどでは「箱バン」として定期的に雇われて給料をもらうというパターンもあったようだ。

しかし昨今の、特にジャズの場合のライブハウスでのギャランティは、もちろん客の入りによって大きく左右される。
大体、ミュージック・チャージの(50~60%)×客の人数分が支払われる。
それを、バンドの人数によって分けるのである。
これが例えば、少し大きなライブハウスだと「60人までは50%バック、それ以上だと60%バック」というようにパーセンテージが変わっていったりする。
 
あるライブハウスで、イベントをやったとき、その規定だった。74人入ってほぼ満席状態になった。
幸せな気持ちで明細書を見たら、50%しかバックされていなくて、私は突然冷静になって、銀行の窓口の人のように言った。
「すみません、60人以上で60%と伺っていたのですが」
店の人は「上に聴いてきます」と言い、ことなきを得た。
ライブで盛り上がってテンションマックスでも浮かれてはいられないのだなと思った。
そんな仕組みであるから、日々、ライブハウスで演奏があるミュージシャンは、それなりに稼いでいけた。
それがパタリと止まったコロナ禍だったのである。


ではポップスの有名アーティストは安泰だったかというと、状況は同じだった。
大勢の観客を集めようとすると、大きな会場がいる。
大きな会場には複雑で大掛かりな音響施設や照明施設が必要になる。
たくさんの有名アーティストが所属する大手プロダクションの会長さんが、コロナ以前からこう嘆いていたことがある。
「日本武道館で満杯になってもね、スタジアムコンサートやってもね、いろんな経費考えたら赤字が出る、っていうことすらあるんですよ」

その分、何で稼いでいたかというと、物販である。
ロゴ入りTシャツ、エコバッグ、うちわ、ポーチ…ああいうものがわんさと売れてこそ、黒字になっていたというのである。

大きな会場でコンサートが中止になったらどうなるか。
新型コロナ蔓延による大会場のキャンセル費が発生する。
もちろん、物販もできない。
何より照明、音響などスタッフは失業する。当の有名アーティストにもお金は入ってこない。
彼らはどうしたか。
そこで始まったのが、ライブストリーム配信だった。

ライブ配信で、3500円、3000円のチケットを売る。それに物販をくっつけるアーティストも増えた。
Tシャツやマグカップなどをプラスして5000円、8000円にする。これはなんとなく記念感も残り、配信だけよりもむしろ良いかもしれないと感じた。

しかし、有名アーティストは公民館から配信するわけにはいかない。
それなりの照明、音響、仕掛けが必要だ。
きっとそういう設備を揃えていたら、さてどのくらい利益が出るのだろうか。
またこの配信をする会社が有象無象現れたが、もちろん手数料をとる。
アーティスト側からもとるし、観る側からも取る。
Youtubeなどで日頃から無料のライブを見慣れている我々にとって、ものすごく観たい配信は限られている。
また、ちょっと慣れないと「あれ、この配信会社のはどこからどういうふうに観れば良いのだっけ」とあたふたしているうちに最初の10分を見逃す、などということも起こる。
そして見終わった後の感想は「早く生で観たいなあ」なのである。

配信にはもう一つ、稼ぐ方法が現れた。
「投げ銭」システムである。
生演奏でも、特にバーなどの演奏で、ミュージック・チャージはないが、ひっくり返した帽子が回ってきてそこにチップを入れるというスタイルが存在する。
配信で、インターネット決済でそれをやるのである。
Youtubeなどで無料配信し「投げ銭」をもらう。
投げ銭には仮想通貨と現金の2種類がある。
Youtubeの場合、現金でもらうには1000人以上のチャンネル登録者が必要なので、それ以外の人は他のPaypalやOFUSEなどといった「投げ銭」システムを使わなくてはならない。

私は2020年の夏のライブでは、PaypalとOFUSEを使った。
Paypalは入金されたが、なぜかOFUSEが入っているはずの3分の1しか換金できなかった。
OFUSEは投げ銭する側がアカウント登録する必要がないということだったが、とにかくこういうことに慣れていない人には難しかったのだと思う。
もらう私も扱えないので諦めた。
2021年の夏のライブは、ちょっと生々しいが銀行振り込みにしてみた。
しかし50歳以上の友人たちにはその方がわかりやすかったようだった。
ネットの「投げ銭」システムは、もう少し簡単で入金も早いものが出てきてもいい気がする。


有名アーティストはそれでも今までの印税で食いつなげるのかもしれない。
しかし、日々の演奏活動を生業にしていた人たちは本当に大変だ。

そろそろ、本当に生のステージをやらないと、そのライブ演奏の良さをわからない年齢層が増えてしまう危惧もある。
このまま、世情が不安になっていったら、またどんどんライブ演奏はやり辛くなる。
生で弾く。生で歌う。生でそれを聴く。
生(なま)は生(せい)である。
生きている人が生きている姿を確かめ合う。
それが、音楽という芸術にできる素晴らしいことなのだ。

そろそろ新型コロナにもおさまってもらい、平和な世の中を取り戻さないと、私たち人間は本当に終わっちゃうんじゃないかと思う。
生きていることを謳歌する。
お互いに生きていることを尊ぶ。
感謝してお金が行き交う。
音楽におけるお金のやり取りは、そんなふうであってほしい。

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#rimawariblog #利回り不動産 #森綾

本連載企画は、「森綾」が自身の体験に基づいた、お金にまつわるエッセイやインタビューを中心に連載していくコーナー「1万円からできる・利回り不動産」の提供でお送りしています。次回もお楽しみに!

プロフィール

PROFILE

    森綾(もり あや)
    エッセイスト、作家。
    近著はロングセラーとなっている『一流の女が私だけに教えてくれたこと』
    (マガジンハウス刊)、『Ladystandard』(マイナビ出版)、『大阪のおばちゃんの人生が変わるすごい格言100』(SBクリエイティブ)など多数。スポーツニッポン新聞社大阪本社で文化部記者に。ミック・ジャガー初来日での単独インタビューで編集局長賞を受賞。その後、FM802開局時の広報・宣伝のプロデューサーに。’92年に上京、独立。人物インタビュー、ルポルタージュ、エッセイ、コラム、雑誌、新聞、WEB小説など多方面で執筆。作家、俳優、アーティスト、タレントなど様々な分野で活躍する著名人のべ2,000人以上のインタビュー経験を持つ。長年のレギュラーインタビューは雑誌ミセス「表紙の人」、毎日新聞「ラジオアングル」、星野リゾート公式HP社長対談構成など。これまでに著した媒体は、AERA、週刊朝日、BAILA、VERY、Saita、婦人公論、LEE、UOMO、COSMOPOLITAN、Men’s club、日経エンタテインメントなど多数。近年は、人と香りをつなぐwebマガジン「フレグラボ」の執筆監修、WEBマガジンのBRISAのチーフエディター(2010-2017年)、WEB小説『音楽人1988』(『音楽人』として2010年映画化)など、WEBコンテンツにも積極的に関わっている。

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