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【容疑者逮捕を受けて】元三菱UFJ銀行員が、貸金庫事件を解説!(Part2)
更新日 2025年1月22日
1.容疑者の経歴から推定されること
山口:
警視庁に窃盗容疑で逮捕されたのは、三菱UFJ銀行・支店長代理だった今村由香理容疑者、46歳です。
三菱UFJ銀行の発表によると、今村容疑者の経歴は以下の通りです。
年月 | 経歴 |
---|---|
1999年 | 入行 |
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2020年4月 ~ 2022年6月 |
江古田支店 営業課長(同店は2022年6月に練馬支店の建物内に移転、独立店舗としては終了) |
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2022年6月 ~ 2024年9月 |
練馬支店 営業課長、営業課支店長代理 |
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2024年10月 | 玉川支店 営業課支店長代理 お客さまからの照会で事件発覚 |
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2024年11月 | 懲戒解雇 |
山口:
推定でお話ししますと、今村容疑者は短大を卒業し、新卒で一般職(現在は廃止)として入行したと思われます。のち総合職へのコース転換をし、役職者候補になるための銀行内の試験に合格。江古田支店勤務以前に役職者に昇格し、江古田支店営業課長に栄転。行内の人事評価は高かったと思われます。
一方で、今村容疑者の経歴には気になる点もあります。
- 江古田支店で営業課長だった容疑者が、練馬支店で営業課長だけでなく支店長代理(対外的な肩書としては営業課長より格下)にもなっていること。これが店舗統合で営業課長が複数となってしまったため肩書が変わっただけなのか、店舗の規模等によって配置が違うのか、降格人事なのかは不明。
- 転勤先の玉川支店で営業課長にならずに支店長代理のままであることです。
- 他のお客さまの資産を盗んで、発覚しそうになったお客さまの資産を補填
- 内容物の認識相違のお申出に対し、忘れ物を装う
- 想定外のご来客時には貸金庫システムを切電し故障を装う
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山口:
練馬支店勤務時代は、後でお話ししますが、隠蔽工作で発覚を防いでいました。しかし、玉川支店への転勤後は練馬支店での隠蔽ができなくなったため、発覚したと推定できます。銀行では、不正を発覚させる目的も兼ねて、連続休暇取得義務や比較的頻繁な転勤を行員に課していますが、転勤がようやくその機能を発揮したということでしょう。
2.驚くべき隠蔽工作と疑問
山口:
容疑者は犯行の発覚を防ぐため、次のような隠蔽工作をしていました。いずれもあまりにも悪質だと思います。
補填できるのは、事実上、見た目があまり変わらない現金のみ。貸金庫のお客さま来店時に、その場で他のお客さまの貸金庫を開けて盗むことは、あらかじめ貸金庫の中身を把握していない限り不可能です。
ということは、補填用の現金をどこかに隠し持っていた可能性があります。だとすれば、どこに保管していたのか疑問が残ります。
昨年12月の記者会見でもあった話です。既に盗んであったが銀行内に置いておいたものを、お客さまの入庫忘れとして返したのか。しかし、貸金庫室のように狭く見通しがよい場所で、札束を落としたり入庫し忘れたりしたことに気が付かないという理屈が通るのか、疑問が残ります。
容疑者は、来店予約システムや、お客さまの来店サイクルの把握により、先ほどお話しした補填等によるごまかしの準備をしていたものと思われます。
それ以外のお客さまで、盗みのターゲットとした方が急にご来店になった場合は、この手口を使っていたとのことです。貸金庫のシステム故障となれば、他の行員も気が付いたはずです。
支店長や本部への報告が必要な事案であるとも思われますが、容疑者は「それは自分がやっておく」と言ってごまかしていたのでしょうか。
3.支店長が気付くチャンスはなかったのか
山口:
昨年の記者会見でも指摘があったように、支店全体として容疑者の動態管理ができていませんでした。
もっとも、支店長がこの容疑者を常時監視し続けることは不可能です。
ただ、私は、支店長が容疑者を不審に思うチャンスは、確実に1回はあったと思っています。
それは、容疑者の玉川支店への異動発令の朝です。銀行では、異動発令の日、対象者は朝一番で支店長室に呼ばれます。私は、その時の容疑者の顔は、真っ青だったと思うのです。「ついに発覚したか」と。その表情を、支店長は何とも思わなかったのでしょうか。
そして異動発令を伝えた瞬間、容疑者の表情は「転勤か・・・」と、一瞬安堵に変わったはずです。しかし、それもつかの間、容疑者の表情は困惑に変わったはずです。「これからは隠蔽工作ができなくなる」と。
ややドラマ仕立ての空想になってしまったかもしれませんが、支店長であれば、部下の微妙な表情の動きも見逃さない人物であってほしいものです。
4.問われる倫理観と人事の選球眼
山口:
容疑者の犯行を可能とした銀行の管理体制と手続の不備については、
前回のブログでお話ししましたので、今回は倫理と人事の問題についてお話ししたいと思います。
容疑者が盗んだとされる金品の総額は、容疑者が銀行から支給された給料の総額を遥かに上回ります。そういう意味では、容疑者の”本業”は窃盗であり、銀行員は”副業”だったと言えます。
これは言うまでもなく「職業倫理」の問題です。しかし、「他人の金品を盗んではいけない」というのは、小学生でもわかる「人間としての倫理」です。たとえギャンブルや投資の失敗で多額の借金を抱えたとしても、です。この容疑者は、それを守れなかったばかりか、悪質で狡猾な隠蔽工作を重ねていたのです。
山口:
もちろん、コンプライアンス研修等により「職業倫理」の教育が実施されています。しかし、さすがに小学生でもわかることまでは教育しませんし、銀行は「窃盗犯予備軍の矯正施設」ではありません。
今回の事件の重大性・悪質性、容疑者の自己制御不能状態に鑑みれば、事件の全容の解明と再発防止のためには、容疑者の入行以前に形成された倫理観にまで遡らなければならないのではないでしょうか。
容疑者のような人物が、なぜ入行できたのか、なぜ役職者に昇格できたのか。また、そのような人事によって選ばれた人材で仕切られている銀行は健全と言えるのか。人事の選球眼が問われています。
プロフィール
山口仁史
株式会社ワイズホールディングス顧問、利回り不動産のオペレーション・CS担当。
早稲田大学政治経済学部卒業、現三菱UFJ銀行に入行。
支店勤務を経て、本部にて有価証券に係る法令・決済・IT・会計等の管理系業務に従事。金融商品取引法導入、有価証券電子化・決済制度変更・カストディ、金融商品会計・IFRS、J-SOX、銀行合併に伴うシステム統合、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の前身会社の設立等を担当。
銀行勤務時代に一棟マンション投資を始め、複数棟を取得。のち独立・起業し、現在は不動産投資家・経営者、業務改善コンサルタント。
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